味噌博士・渡邊敦光先生に聞く!味噌が放射線の害を防ぐってホント!?

2011年に起きた東日本大震災は、多くの人命を奪っただけでなく、福島第一原子力発電所で深刻な事故を引き起こしました。この事故を機に「放射線」という言葉に関心を持った人は多いと思いますが、当時、にわかに注目を浴びたのが「味噌」です。今回は、「味噌と放射線の関係」について、まとめてみたいと思います。

「味噌の放射線防御作用」が着目されたのは、痛ましい実体験がきっかけでした。1945年長崎に原子爆弾が投下された際、爆心地より1.4kmにあった病院で被ばくした秋月辰一郎医師(享年89歳)は、「私といっしょに、患者の救助、付近の人々の治療にあたった従業員にいわゆる原爆症が出ない原因の一つは『わかめの味噌汁』であったと私は確信している」と、『体質と食物―健康への道』(クリエー出版部)に残しています。この話は、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の際にヨーロッパ諸国に広まり、味噌の輸出量が急増しました。

画像:平和公園(平和祈念像・平和の泉)

「味噌が放射線の害を防ぐ」を科学的に実証したのが、広島大学の渡邊敦光名誉教授率いる研究チームです。
渡邊先生は、30年以上にわたる研究から、味噌には、がんや高血圧、脳卒中、放射線などから体を守る働きがあることを実証されてきました。

渡邊先生の研究では、実験用マウスに7日前から「Ⓐ普通のエサ」「Ⓑ食塩入りのエサ(味噌と同じ食塩濃度)」「Ⓒ味噌入りのエサ」を与え、放射線を照射。
3日半後、マウスを解剖し、細胞分裂が盛んで放射線障害が起きやすい「小腸(腺(せん)窩(か))」の状態を観察したところ、驚きの結果が出ました。

グラフの通り「Ⓒ味噌入りのエサ」が一番小腸の細胞(腺窩)が再生しています。
実際の画像で見ると(左:Ⓐ普通のエサ、右:Ⓒ味噌入りのエサ)、黒い丸印が細胞(腺窩)が再生した箇所で、「Ⓒ味噌入りのエサ」のほうがかなり多いことがわかります。
また、放射線を照射したあとに味噌入りのエサを与えても効果はなく、あくまで“事前に食べた”マウスに結果が表れたそうです。

※グラフと図は『味噌力』(発行/かんき出版、著者/渡邊敦光)を参考に作成。

では、味噌の何が影響しているのか? 渡邊先生は、味噌の熟成過程でつくられる「メラノイジン」に着目。
熟成期間が違う味噌で同じ実験をしたところ、「2年熟成」までは放射線防御作用が増加したものの、「5年熟成」では減少し、「10年熟成」では全く効果がなかったそうです。
さらに、「2年熟成」までは麹の種類に関係なく放射線防御作用があることから、「熟成」が大切であることが判明しました。

「大量の放射線を一度に浴びることは、事故以外にはめったにあることではありませんが、低レベルの放射線を長い間浴び続けると、がんや皮膚障害、造血機能障害などを引き起こすこともあるので注意が必要です。
ただ、私たちは、もともと自然界からある程度の量の放射線を受けていて、食品にも天然の放射性物質が含まれているので、あまり神経質になる必要はありません。
ただし、CTスキャンなど医療被ばくは、年間の被ばく上限1ミリシーベルト※(自然放射線や医療被ばくを除く)をはるかに超えるものも多いです。
検査で体に負担をかけては本末転倒、医療被ばくをする前後1週間ほどは味噌汁を飲んでおくといいでしょう」と渡邊先生。
※「シーベルト」とは、人が受ける放射線の影響を表した単位。mSv(ミリシーベルト)は、Sv(シーベルト)の1/1,000。

一口に「放射性物質」といってもさまざまあり、人では実験ができないため、当然ながら「100%放射線の害を予防する」とは断言できませんが、秋月医師の経験談、渡邊先生の動物実験は、非常に画期的な研究で業界内外から多くの注目が集まりました。
いかがでしたか? おいしくて健康にも美容にもよい味噌汁を飲まない手はありません。今後のさらなる研究に期待が高まります。

【参考資料】
『味噌力』(発行/かんき出版、著者/渡邊敦光)
『味噌をまいにち使って健康になる』(発行/キクロス出版、著者/渡邊敦光)
『味噌大全』(発行/東京堂出版、著者/渡邊敦光)
『食品と放射能Q&A』(消費者庁)